土木構造物レポート
テーマ:奈良駅周辺の立体交差事業と大和北道路工事概要について
Line.1 イントロダクション

近年の自動車の利便性は、高速道路をはじめ一般道においてもスムーズな交通流の実現に多く取り組まれ、その環境は充実しつつある。特に近畿圏においては、大阪・京都・神戸・奈良といった広範囲にわたった都市形成がなされている。そのため、それらの都市をつなぐ高速交通は必要不可欠である。

一方で、西暦710年の平城京遷都から始まる近畿圏の歴史は、奈良を中心とした広範囲にわたり、近年においても建設工事中に遺構が発見されるなどして、現状に見合った社会資本整備が困難な状況にある。このことは、奈良の中心部で発生する交通渋滞の解消を困難とし、現代の生活に支障をきたす要因となっている。

奈良県北部は、「古都奈良の文化財」に登録された建造物、地域が多く存在する。現在登録されているものは唐招提寺、薬師寺、元興寺、春日大社、平城宮跡、興福寺、東大寺がある。また、遺産の周辺環境を保護する目的から春日山地区、平城宮跡地区、西ノ京地区が緩衝地帯(バッファゾーン)に指定され、それらの3地区を繋ぐように歴史的環境調整区域(ハーモニーゾーン)が指定されている。これらにより、奈良の中心部は東西と北部を囲まれるような状況にあり、大阪、京都からの交通アクセスは限られた道路しか無い状況にある。



Line.2 奈良駅周辺の踏み切り事情

JR奈良駅付近の関西線と桜井線は奈良市の旧市街地を分断する形で存在しており、都心部の自動車交通を妨げている。また、鉄道と交差する道路は、踏み切りや旧来の跨線橋であるため、交通渋滞が慢性化しており、交通機能の強化が必要である。これらの課題を解消するためには、連続立体交差が必要不可欠な状況である。この事業は延長約3.5km、除去踏切数は6箇所である。また、総事業費は約450億円である。



Line.3 連続立体交差事業

市街地において多くの道路と次々に交差している鉄道は、踏切による交通渋滞や踏切事故の原因となり、都市活動の大きな障害となっているだけでなく、鉄道による地域の分断により、均衡のとれた都市の発展を妨げている場合がある。また、鉄道においても、踏切の存在を考慮した運行が必要であり、運行速度などが制限される場合がある。そこで、地上の鉄道を一定区間連続して高架化することによって多くの踏み切りを一挙に除去し、立体交差化を実現する都市計画事業で地方公共団体が実施している。

JR奈良駅付近の関西線と桜井線は、奈良市の旧市街地の西側から南側を横切っているために、奈良市都心部の発展を著しく妨げている。また、これらの鉄道と交差している道路は、踏切や車線数の少ない跨線橋のために交通渋滞が激しく、第二阪奈有料道路や京奈和自動車道に対応する交通機能の強化が求められている。これらの課題を解消し、活力あるまちづくりを行うには、連続立体交差事業の実施が不可欠である。



Line.4 旧駅舎の移動高架駅の建設
a) 旧奈良駅舎の概要

関西線奈良駅は1890年(明治23年)12月27日に和風木造平屋建の駅舎で開業した。そのご1934念(昭和9年)に改築され、現在の駅舎は2代目にあたる。現在の駅舎は、御大典記念京都市美術館のコンペ応募案であったものが修正されて採用されたというエピソードがある。

1)建設年度

第1期 昭和8年4月〜昭和9年11月(関西鉄道株式会社) 正面中央部

第2期 昭和33年1月〜昭和33年8月(日本国有鉄道) 左右翼部分一部改修

2)設計者

大阪鉄道管理局初代建築課長、工務課改良掛技師(柴田四郎氏)を中心とする国鉄技術陣 実施設計者(増田誠一氏)(推測)

構造・規模:鉄筋コンクリート製、地上1階(一部2階)地下なし

3)延床面積:約1093u

4)最高高さ:GL+約21.3m

5)曳家重量:約3500tf(駅舎移動時の建物総重量)

6)既設基礎底:GL-約1.7m(松坑L=2.7m(想定))

7)最深掘削深さ:GL-約30m(1FL-3.35m)

b) 曳家工程

1)1次掘削・基礎補強工事

2)2次掘削・(仮受位置掘削)

3)仮受け杭工事

4)2次掘削(フーチング下部掘削)

5)地盤改良・耐圧版工事

6)移動工事(回転約13度)

7)移動工事(斜曳約18m)

8)ジャッキダウン工事

9)定着工事



Line.5 高架駅の建設
a) 新奈良駅の構造

新たな奈良の玄関となるJR奈良駅は、3面4線構造の高架駅となる。プラットホームは地上3階に位置し、1階はコンコース、2階はホームの連絡通路となる構造である。外観は古都奈良を意識した和風の雰囲気である。

b) CFT構造の特徴

従来の鉄道高架橋は、主として経済性の観点からRCラーメン高架橋が多用されている。しかし、営業線に近接しているなどの施工条件が厳しい場合に、型枠や配筋の作業が省略できれば安全性や施工性の向上を図ることが可能である。

CFT構造は、RC構造の鉄筋に代えて鋼管を使用し、内部にコンクリートを充填するものであり、施工の簡素化、工期の短縮を可能とする。また、部材の特徴である鋼とコンクリートの合成効果により、同一断面のRC部材と比較して大きな耐荷力が得られ、鋼管の 局部座屈をコンクリートが収束するため、変形性能にすぐれた耐震性も高い。コスト面においても、狭隘で施工条件の厳しい箇所や大スパンを必要とする箇所では、RC構造と比べ有利となる場合もある。また、鉄骨や鉄筋が輻輳するCFT柱と上層梁との接合部において、コンクリートの充填性には十分に留意する必要がある。



Line.6 大宮跨線橋撤去工事

大宮跨線橋の撤去は、東行き車線2車線(高架橋1車線、側道1車線)、西行き車線2車線(高架橋1車線、側道1車線)の合計4車線を確保したまま撤去を行っている。また、現在跨線橋の高さが将来のJR高架橋と同じ高さであるために、跨線橋を約3m嵩上げして高架橋2車線を確保している。工程としては、4車線の跨線橋がかけられているが、現行の踏切と仮設踏み切りを活用し、加えて片側2車線をジャッキアップさせ通行を維持しつつ、残りの2車線を撤去、これと同時に鉄道高架線を構築する計画である。また、地下には近鉄奈良線が通っていることから、ジャッキアップに伴う道路面の嵩上げには、発泡スチロールが用いられ軽量化がなされている。



Line.4 大和北道路

大和北道路は京都から奈良を抜けて和歌山へと続く京奈和自動車道の一部となる道路である。京奈和自動車道は、大和平野を南北に縦貫して京都と和歌山を結ぶ延長約120kmの高規格幹線道路である。 この道路整備により、奈良県の政治、経済の拠点であり、世界遺産等の豊かな観光資源が存在する奈良市と、県内各都市及び県外からのアクセスが向上し、県の経済活動の活性化及び広域的な観光振興が得られる。

また、国道24号線の渋滞緩和や一般道路での交通事故の削減、医療サービスの向上、地域の環境改善などの効果が期待される。



Line.5 まとめ

奈良中心部の交通事情は、非常に厳しく歴史的遺産等の関係から効果的な整備が困難な状況となっている。朝夕におけるラッシュ時の渋滞は必須であり、現状の社会基盤設備では解決できない。そのなかで、南北を地下道路によって結ぶ大和北線など、これまでに築きあげられた技術によって、これらの問題が解決されようとしている。






参考資料

コンクリート工学:Vol.40、No.10、2002.10.

見学会配布バンフレット