土木構造物レポート
テーマ:しまなみ海道
Span.1 イントロダクション

1999年5月1日、広島県尾道市と愛媛県今治市が10橋梁を通じて陸続きとなった。この西瀬戸自動車道(通称:瀬戸内しまなみ海道)(以下、しまなみ海道)は瀬戸大橋を含む瀬戸中央自動車道、明石海峡大橋を含む神戸淡路鳴門自動車道に次ぐ本州四国連絡橋のなかで最後のルートとなった。
この、しまなみ海道は、かつて瀬戸内海最強の「村上水軍」が勇壮な海のロマンを繰り広げた芸予諸島の島々を縫う、46.6�劼陵�料道路である。また、新尾道大橋以外の各橋には尾道から今治に至る、原動機付自転車・歩行者専用の道路が併設されており、自転車や徒歩で四国まで渡ることが可能である。このルートは、国土交通省が自動車専用道路として整備した生口島道路(6.5��)及び大島道路(6.3��)と直結され、本州と四国を結ぶ連絡道路としての役割はもちろん、島々に住む人々にとっての生活道路としても大きな役割を果たすことが期待されている。



Span.2 各橋梁の紹介

<新尾道大橋>
新尾道大橋は、5径間連続鋼箱桁斜張橋である。本州四国連絡橋のなかで最後に着工された橋梁となる。観光地、尾道の景観を考慮し、隣接する尾道大橋との調和が重視され、一本塔柱から7段のケーブルを平行に張った形式が用いられている。建設には足場を用いない「送り出し工法」が採用された。

<因島大橋>
因島大橋は、3径間2ヒンジ補剛トラス吊橋の橋梁形式であり、向島と因島を結ぶ吊橋である。本州四国連絡橋の中で最初の吊橋ということもあり、その後の建設技術の先駆けとなった。橋梁上部は自動車道、下部が原付、自転車、歩行者道となっている。

<生口橋>
生口橋は、3径間連続複合箱桁斜張橋である。この橋梁は側径間をコンクリート桁(PC桁)、中央径間を鋼桁で構成された複合構造である。斜張橋技術のさきがけとなった橋梁である。

<多々羅大橋>
多々羅大橋は3径間連続複合箱桁斜張橋である。2006年時点で世界最長の斜張橋であるが、元々は吊橋で計画されていたものを技術進歩と経済性から斜張橋へと変更した。多々羅大橋のケーブルは、非常に長く、これまでに建設された斜張橋のケーブルに比べ、固有振動数が著しく小さく、風雨時に生じるレインバイブレーションという振動が問題と考えらた。
この振動を強制的に抑えるためには、大規模な装置(ダンパー)が必要となる。そこで、ケーブル表面に離散的に凹部を設けたインデントタイプのケーブルにより、空力学的に制振する手法が開発、採用された。
また、渦励振によるケーブル制振対策として、ケーブルの桁側定着部に弾性シール材等を設置し、振動を抑える方法が採用されている。

<大三島橋>
大三島橋は、単径間ソリッドリブ2ヒンジアーチ橋である。当時の技術と建設地の条件からアーチ橋が採用された。また、橋梁の変位を考慮し、ヒンジが設けられている。

<伯方・大島大橋>
伯方・大島大橋は、3径間連続鋼箱桁橋である。これまで主流とされてきたトラス吊橋ではなく、箱桁を採用した橋梁である。箱桁の採用は、施工および維持管理において有利であり、その後に登場する橋梁に多く用いられている。

<来島海峡大橋>
来島海峡大橋は、3つの橋で構成される3連橋である。橋梁形式は来島第一橋から順に3径間2ヒンジ補剛箱桁吊橋、2径間2ヒンジ補剛箱桁吊橋、単径間2ヒンジ補剛箱桁吊橋である。アンカレッジ部分をトンネルアンカレッジにするなど、地形改変を抑えている。

Span.3 橋梁のデザインについて

a)橋梁と景観

1973年秋のオイルショックを契機に、時代の要求は従来の物量思考から“質・文化”を求めて“物より心”の時代となった。公共構造物も、この時代の要求に対応し、色彩も形態デザインもテクスチュアを合わせて考えなければならなくなった。
橋梁においては、従来は橋梁自体の形態美を主とし、周辺の環境は従としてとらえられていた。しかし、現代は橋梁の周辺環境との調和と同時に透視空間を重視するようになってきている。
さらに、橋梁は元来その美しさを景観としてとらえてきたが、最近は橋梁取り付け部、橋上の道にくつろぎの空間を演出するようになってきた。
“橋梁のある生活空間”としては、橋梁自体の形態美、透視空間の尊重、橋梁の内面が重要である。橋梁の見え方には、外(川の側)から眺める橋、橋の袂から眺める橋、橋の中から眺める橋、等がある。橋の内面とは、橋及びその周辺が創り出すくつろぎの空間とする。近年の橋は、桁が薄く、透視空間を重視している。

b)自然環境への調和

構造物が自然環境に調和するということは、周辺環境、人文環境、地域的環境、歴史的環境などに関して、それぞれにふさわしい調和がなければならない。山間部、田園地帯、都市空間、臨海地帯、港湾地帯などの別、また気候的には温暖地帯、寒冷地帯、その他地方風土の差異、あるいは神社仏閣、名勝旧蹟の有無など、その環境は多種多様である。そして、これらの諸環境は重合し、相互に影響しあっている。
橋梁の周辺環境への色彩調和を考えてみる。例えば、瀬戸内海の諸橋は、ライトグリーングレイ(Light Green Gray)を採用している。これは、架設する橋梁は、橋梁自体の色彩を表出することはあってはならないという考えで採用されている。一般に、海洋に架橋する場合は、橋梁を遠望することになり、海洋空間に溶け込む事が重要である。そのため、ライトグリーングレイ(淡い緑灰色)が採用されている。

Span.4 サビとの戦い

海洋上に建設された鋼製の橋梁は、サビとの戦いが待っている。1989年、完成から6年目を迎えた因島大橋で、橋げたを支えるケーブルにサビが見つかった。ゴムなどによる頑丈な包装材を切り開くと、ケーブルの下側に点々とサビがあり、放置すれば鋼製のピアノ線切断の恐れもあった。その後、ケーブルに乾燥空気を流し、結露を防ぐ試験を実施し、ピアノ線11557本が束ねられたケーブル内部のごく小さなすき間を伝わり、風は通った。以来、本四公団はつり橋ケーブルのサビ防止はこの手法が採られている。
防錆等の維持管理には年間100億円が必要ともいわれている。この先、年数を経た橋梁を維持していくためには絶対不可欠な費用である。

Span.5 動態計測

来島海峡大橋をはじめとする吊橋には、常時及び暴風時の桁とケーブルとの相対変位を抑えるため、本橋中央部にセンタースティが設置されている。このセンタースティは、大きな地震力を受けた場合、センタースティロープが破損する前にロッドが破断するように設計されている。
2001年3月に発生した芸予地震(Mj6.7)においては、来島海峡第一大橋のセンタースティロッドが破断した。この事実から、地震計による地震動観測記録を入力した動的解析が実施され、来島海峡大橋3橋全てのセンタースティ張力の照査がなされた。その結果、第一大橋はロッドの破断強度を上回り、第二、第三大橋は破断強度以内となった。このことから、第一大橋のロッドのみが破断した現象と解析結果が一致し、解析方法や解析モデルの妥当性が検証された。

Span.6 地域経済の変化

しまなみ海道の開通は、到達時間の短縮を実現した反面、多くの船舶航路が廃止となった。これまで四国への玄関口となっていた三原においては、航路の廃止に伴い今治行きフェリーが廃止された。その結果、これまでの街の衰退がさらに進行し、港町としての活気は失われてしまった。これは今治においても同様である。
一方、橋の開通で観光客の増加を見込んだ島嶼部においては、結果的に通過点となり、思うような集客は得られていないのが現状である。
しかし、本州から四国までを自転車で渡ることができ、巨大構造物を間近で見ることができるなど、他のルートではできない魅力があるのも事実である。これらの魅力を最大限に生かすか否かが、今後のしまなみ海道を左右するように思われる。

Span.7 まとめ

しまなみ海道の開通は、相反する効果が大きい事例のように思われる。肯定的にとれば橋梁技術の発達、自動車による移動の利便性など、普段の生活では気づかない効果は大きい。しかし、これまで発達していた海上交通の廃止などは、島嶼部の学生や高齢者に対しては不便なものとなったように思う。このことは、しまなみ海道の島々の過疎化がより一層進むかもしれない。




参考資料

古家和彦、磯江浩、森幸夫:「芸予地震における海峡部橋梁の被災復旧状況及び橋体の挙動」、本四技報、Vol.26、No.99、pp24-34、 2002.9

古家和彦、磯江浩:「芸予地震による瀬戸内しまなみ海道の被害とその補修」、橋梁と基礎、pp29-34、2003.2

景観デザインと色彩、熊沢傳三 著、技報堂出版

広島県HP http://www.pref.hiroshima.jp/

本州四国高速道路株式会社 http://www.jb-honshi.co.jp/center/job/eqres.html